プラダー・ウィリー症候群(PWS)児・者 親の会

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鳥取大学附属病院脳神経小児科 大野 耕策

プラダー・ウィリー症候群と私


プラダー・ウイリー症候群のお子さんの主治医になったのは昭和53年鳥取大学附属病院脳神経小児科の病棟医をした時でした。

1人のミルクを飲まない乳児の主治医になりました。その時は診断できませんでしたが、3歳ごろ肥満が出てきて先輩の医師から診断を教えてもらいました。

それからは、私もプラダー・ウイリー症候群の赤ちゃんの診断が出来るようになりました。

20年後、この子のお母さんから肥満と糖尿病のコントロールがうまくいかない様子を伺うようになりました。また、その他のお母さんから、肥満や糖尿病以外の心配事を多く伺うようになりました。
今、アスペルガー障害、注意欠陥多動性障害、自閉症など行動と情緒の発達に異常を来たしやすい状態が注目されています。
これらの状態を病気として医学が治療できるようにするために、原因遺伝子を探そうという動きが活発に行われています。
こういった中で、私は、特定の染色体異常や遺伝子の異常でおこる病気の行動に注目することが、遺伝子‐脳機能‐行動の関係を明らかにして、行動に対する医学的なアプローチを開発できる近道ではないかと考えてきました。
たとえば、染色体7番の欠失でおこるウイリアムズ症候群は、同じIQの知的障害の子と比べて音楽や話し言葉が得意で、初対面の人でも恐れずに話しかけるのに、パズルを組み合わせたり絵を描くことが苦手です。
初対面の人を恐れないのは、普通の人が怖い顔を見ると興奮する扁桃体が興奮せず、前前頭野から扁桃体への連絡が悪く、この原因にこの染色体7番にある遺伝子が見る機能と関係していることが示唆されはじめています。
プラダー・ウイリー症候群も、共通した行動の特徴があり、その背景に注目されていますが、まだ、行動の特徴と脳機能との関係は明らかになっていません。
今、若いときに「プラダー・ウイリー症候群はこうですよ」と教えてくれた子達から、もう一度、「私たちはこういう風に物や人を見て、こういう風に感じているので、こういう行動をするのですよ」と教えてもらおうという気になっています。
これまで、竹の子の会にお願いして2回のアンケート調査をさせていただきました。
この結果、プラダー・ウイリー症候群の子では、対人相互作用における障害(友達と仲良くしたいという気持ちはあるけれど友達関係をうまく築けない)、コミュニケーションの質的な障害(同じ内容を全く同じ言い回しで繰り返す、妙な言い回しや、ある特定の言葉を何度も繰り返す)、常同的・反復的な行動様式(ある特定のやり方や順番、儀式的なパターンにこだわる)、故意に自分の体を傷つける
、反抗的、挑戦的な行動様式(思い通りにならないと腹をたてる、かんしゃくを起こす、注意されると腹を立てる、しつこく要求する)、不注意(細かいところまで注意を払わなかったり、不注意な間違いをする)の頻度が多いことが明らかになりました。
これらはしばしば自閉症や注意欠陥多動性障害に認められるものでした。 これらの行動が、脳のどういう場所の機能の異常でおこり、その場所の機能は染色体15番のどの遺伝子の働きと関係し、その遺伝子の働きを回復させるのにどういう薬が良いと明らかにすることで、プラダー・ウイリー症候群の行動に対する医学的治療法が出来るだろうと考えています。
しかしプラダー・ウイリー症候群の脳の機能を研究するためには、これからもどうしても親の会の協力がないと出来ません。今後とも、どうかよろしくお願いします。

医学的対応法が出来るのはおそらく10年以上かかるだろうと思います。それまで今の成長期にあるプラダー・ウイリー症候群の子に対してどのように対応していくかが大きな課題です。
私たちのアンケート調査を踏まえ、現時点では、下のような教育的・心理学的アプローチを薦めたいと思います。

セルフコントロール

自分で自分の行動をコントロール出来る(セルフコントロール)能力を養いましょう。
過干渉や叱咤・激励ばかりでは、自己像が低くなり、かんしゃく、いらだつ、口論、拒否、反抗、他人をいらだたせるなどの反抗挑戦性障害が起こりやすくなります。
ペアレントトレーニングといわれる上手なほめ方、上手な行動の制止の方法を学び、お子さんの行動のコントロールが出来るようになりましょう。

以下の本を参考にしてください。

読んで学べるADHDのペアレントトレーニング~むずかしい子にやさしい子育て~
Cynthia Whitham著(1991) (訳:上林/中田/藤井/井潤/北)
明石書店 2002 ¥1,890 (税込)
AD/HDのペアレント・トレーニングガイドブック-家庭と医療機関・学校をつなぐ架け橋-
岩坂・中田・井澗/編著 じほう 2004 ¥1,890

社会的なルール

人と付き合うための社会的なルール(ソーシャルスキル)を学ばせましょう。
以下の本をお子さんと一緒になんどもなんども読みましょう。 

「みんなのためのルールブック―あたりまえだけど、とても大切なこと」
ロン・クラーク著(訳:亀井よし子) 草思社 2004 ¥1,000

とりあえず、この2点を試みられることをお勧めします。
これらのことは、なんの問題も持っていないように見える子供の子育てでも大切なことで、習得して損することはありませんので、是非ためしてみてください。
子育ての課題は、持って生まれた知能に見合った学力をつけさせるとともに、社会に適応していく能力を育てることにあると思います。
安定した穏やかな心が保てるようにすること、無理をしないでも健康な体を維持できるような生活習慣を整えること、周りの人と仲良く就労できるようになることを、みんなの目標にしていきましょう。
2006.2.1

カテゴリー:[HP開設に寄せて] Date:07/02/10/Sat